不眠と幻と

 

高一の春休み、なんとなく関ヶ原に行ってみたくなったので大阪からママチャリで向かった。

夜中から出発して、紆余曲折なんやかんやあって滋賀県の琵琶湖の大きさに絶望して、夕方。道路の脇で膝を抱えた。行くも戻るも地獄。

残金は五百円。

結局、関ヶ原に辿り着いても真っ暗な状況じゃ何も出来ないし(そもそも何をしたいのか考えていなかった)、引き返すことにしたのだが、タダで帰るのも癪だったので、せっかくだし生まれた土地に行くか、と兵庫県に立ち寄って家まで帰ろうとした。

 

車道をふらふらと自転車で進んでいると、後方から車が抜いていった。

弟の車だった。

 

「おい、おいてくなよー!」

搾りかすみたいな気力の立ち漕ぎでなんとか追いついて、弟の車に視線をやる。

 

弟の車?

 

弟は当時、中学生で運転なんてしているわけなかった。

 

ハッとした。

 

見知らぬ誰かの車を追いかけて並走していたのだ。

 

 

 

 

知らない番号から着信があった。

 

「もしもし」

 

「今どこですか?」

 

「……家です」

 

 

 

 

社会人になって初めての遅刻だった。

 

 

Apple Watchと壁にかけている時計で時間を確認した瞬間、心臓が体を突き破るんじゃないかと思うくらいに跳ねたが、通話後確定した遅刻を前にしたら意外と冷静だった。

 

 

ただし、スマホと財布は忘れていたので冷静になっているつもりだった様子。

 

8時間以上ぶっ通しで眠っていたのだが、普段は数時間毎に目が覚めるので、その事実に驚いている。疲れていたのだろうか?

 

普段より早めに寝て、でもアラームをかけ忘れていた。

普段はアラームをかけ忘れても起きたい時間付近に目覚めることが出来た。過信である。

 

寝不足かといえばむしろ寝過ぎていたりしたし首を傾げるばかりだった。

 

職場に着いておよの顔を見るみんな、半笑いだった。

普段の行いが悪くは無かったので特に何も言われず。それがかえって微妙な気持ちにさせた。

 

怖い。起きれなかったのがアラームの設定忘れだけなのかわからないため、眠るのがその日から怖くなった。

その日は結局21時間起きていた。

つまり、始業時間3時間前、である。

 

また寝坊するのではないか、という恐怖でここまで眠れなくなるとは。アラームをこれでもか、と設定して、左手にApple Watchを右手に久しぶりのCMF Watch Pro 2を。

 

そして、1時間半程眠った。

 

無事に目が覚めたが、眠りにつくたびにあの寝坊の事が頭に満ちてくる。浴槽に湯を張るように。

 

 

半ば幻覚を見るような中、働いた。

それは悪い事ばかりではなかった。

 

常に視界が曖昧で、様々な物質の輪郭が溶けて混ざり合っている。

 

教室一つに存在する学生、机などの備品を含めて人間の最小単位とするような適当さ。

 

幻覚のような物を視界の中に認めた。

自分の脳が仮構する拡張現実に、自身が保証する正確性とやらのいい加減さに笑いが出てきた。

ひさしぶりじゃないか。

 

 

 

 

そんな感じで、今も眠るのが怖いが睡眠不足が見せる幻覚も悪くないなと、楽しむことにしている。